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相続の基本的な論点をQAでまとめました。理解しやすいように,できるだけ具体例を記載しました。
説明が長いとわかりにくいので,100文字を目安に回答しました(一部,超過した記事があります)。
皆様の問題を解決するヒントになりましたら幸いです。
当事務所では長年にわたって様々な相続・遺言事件を取り扱ってきました。
一般的なオーソドックスな事件もあれば,相続財産の大小に関係なく,記憶に残る難件もありました。その中で,比較的,似た事件が多そうなものを,幾つかご紹介しましょう。
なお,以下の(解決例)では,ポイントのみを短くわかりやすく記載しています。その分,正確な表現になっていない箇所もありますので,ご了承ください。
もっと遺産があるのでは?
甲は10年前に妻が死亡し,その後は長男A夫婦と同居し,死亡する2年前から介護施設に入所していました。甲の相続人は子のABです。BはAが遺産を隠していると疑っています。遺産はどんな方法で調査すればよいのでしょうか。
よく問題になる争点です。遺産の調査は難しいのですが,相続税申告書は,税理士さんが申告の漏れがないように職業上の注意をもって網羅的に遺産を集計していますので,一応,それを目安にするのがよいでしょう。また,相続人全員の同意がないと,不動産は売買も登記名義の変更もできませし,預貯金,株式などの金融商品も,相続人全員の同意がないと引き出したり換金できませんから,財産隠しの心配はそれほどないといえましょう。なお,2018年7月に民法(相続法)の改正法案が成立し,預貯金については各相続人がその相続分の3分の1の額までは単独で引き出せることになりました(2020年7月までに施行予定)。その場合でも,それ以外は,他の相続人の相続分は勿論,自らの相続分の範囲内であっても単独では引き出せませんから,遺産である預貯金を隠してもあまり意味がないでしょう。
これに対し,宝石,絵画,現金などは隠されてしまうと捜しようがありません。甲の生前から,甲とのコンタクトを維持し,甲の財産の明細を把握しておくことが有益です。
なお,甲の生前中に,近くにいる相続人によって甲の預金が引き出されることもよくあります。そのため,相続人は金融機関に「甲の口座の取引履歴」の開示を求めて,その履歴から不正な引き出しがないかを調査したりもします。
50年前の登記名義が残ったままになっている
甲は50年前に死亡しました。甲の自宅の土地建物(以下,本件土地建物)には,今は,甲の孫が住んでいますが,登記名義は甲のままです。甲の相続人は甲の子5名でしたが,その後,その子にも相続が生じ,現在では,再相続人,代襲相続人を含めた相続人は22名になっています。住居も日本全国に散らばっていますし,互いに面識がない人もいます。甲の孫から,本件土地建物をお金を出してでも取得したい,と相談を受けました。
よくある事例です。当事務所では,毎年のように類似の案件を受任しています。本件土地建物を甲の孫が取得するには,他の相続人全員の同意が必要ですが,相続人が20名を超えると,しかも,面識もまったくないとなると,気が遠くなりそうです。
しかし,案外,解決するものです。当事務所では,原則として,相続人に適正な価格での買取案を提案して,相続人全員の同意を得るようにしています。他の相続人も,どこかで解決したいという気持ちを持っていますので,適正な提案であれば解決するものです。
全員が買取の申込みに同意しないときでも,不同意の相続人はかなり少なくなりますので,その後,不同意の相続人に対して遺産分割の調停を申立てればよいでしょう。
被相続人の預金が他人名義になっている
今の金融機関は預金口座の開設にあたって厳格な本人確認をしますので,最近でこそ他人名義や架空名義の預金はありませんが,少し前までは,大手銀行でも他人名義等の預金が随分ありました。甲は弟の名義で銀行預金(預金A)をしたまま死亡しました。甲の相続人は妻と子ですが,相続人が銀行に預金Aは甲の預金だから引き出したいと言っても,銀行はまったく応じてくれません。どうしたらよいでしょうか。
難問です。名義人(甲の弟)が協力してくれるときは,甲の弟が預金を引き出し,それを相続人が遺産分割すれば解決します(ただし,甲の弟からの贈与が認定されかねませんから,注意が必要です)。甲の弟が協力してくれないときは,甲の弟と銀行を相手にして裁判を提起する必要がありますが,これも大変ですし,勝訴できるかも不明です。実際には,甲の弟に協力してもらうかわりに,幾らかの協力金を支払って,話合いで解決することもあります。いずれにしろ,他人名義の預金があると,相続が大混乱します。「他人名義の預金」はしない,もしあるときは生前に真正名義にしておくことが鉄則です。
貸金庫を開けたい
資産家の相続事件でした。被相続人はかねがね,○○銀行××支店の貸金庫に大事な財産を保管している,宝石や株券もあるなどと言うのが口癖でした。そのため,貸金庫の中を調べたいのですが,貸金庫を開けるには,相続人全員が共同して銀行に申請する必要があります。ところが,相続をめぐって相続人が対立していて,相続人がまとまりません。
相続人のお一人から遺産分割事件を受任しましたが,貸金庫契約の解除に限定して,当職が相続人全員の代理人となって,貸金庫契約を解除して金庫の中を調べることにしました。それを相続人全員に説明して理解をしてもらうのが大変でした。銀行へ提出する委任状には相続人の実印を押印し,印鑑証明書1通を添付しなければならないので,その取り付けも大変でした。それだけの苦労をして,ようやく貸金庫を開ける日になりました。相続人も沢山同席しましたが,金庫を開けてみたところ,まったくの空っぽでした。何にもありませんでした。全員で大笑いしたものです。
戸籍に記載がない?養子
甲夫婦は子供や兄弟がありません。甲が死亡し,妻が自宅の不動産の登記名義を甲から自分に変更しようとして,司法書士さんに手続を頼んだところ,甲の戸籍に,甲が妻との結婚前に当時3才のC(甲の姪)と養子縁組していると記載されていました。ところが,Cの戸籍には甲との養子縁組の記載がありません。養子縁組は,養親と養子の双方の戸籍に記載しなければなりませんから,いずれかの戸籍に不備があるわけです。戸籍実務は非常に精緻におこなわれますが,人間のやることですから,こんなこともあるわけです。さて,Cは甲の養子なのでしょうか。ちなみに,甲は,Cとの養子縁組を妻にも話したことがありませんし,Cも甲との養子縁組は知らないとのことでした。甲の妻はどうすればよいのでしょう。妻からご相談を受けました。
甲の戸籍にCが養子と掲載されている以上,Cを除外しては,不動産の登記名義の変更や,預金の引き出しはできません。戸籍によって甲の相続人を確認するからです。では,Cは養子になるのでしょうか。甲とCとの親子関係を法的に確定しようとすれば,親子関係存在又は不存在の確認訴訟をしなければなりません。しかし,Cが甲の「養子」という身分にこだわらないのであれば,遺産の分配だけのことですから,当事者の話合いでどうにでも合意することができます。そのため,Cと話合い,Cが適法な養子なら,妻及びCは1/2ずつ相続するところを,妻3/4,C1/4で解決しました。
相続人の所在と生死がわからない
遺産分割の協議は,相続人全員の同意がないと成立しません。相続人の中には,どこに住んでいるのか,生死もわからないときがありますが,それでも全員の同意が必要です。特に外国に出国すると,日本の住民票の制度がないため,住所をたどることができません。生死すらわかりません。
それでも解決方法はあります。住所が不明のときは,家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を求めます。不在者財産管理人は行方不明者の代理人ですので,不在者財産管理人と遺産分割協議をします。不在者が取得した財産は,不在者財産管理人が保管します。
生死不明のときも不在者財産管理人の選任でよいでしょう。ただし,7年以上生死が不明のときは,不在者について失踪宣告をとることも有効な方法です。失踪宣告があると,不在者は死亡したものとみなされますので,他の相続人だけで遺産分割協議が可能になります。
相続した後に,大きな借金がわかった
甲が死亡し,相続人は子のABCです。甲の財産は預金200万円だけでした。ABCは,この預金を3名で分配しました。甲の死亡から2年後,貸金業者から,甲が乙の保証人になっているので,保証債務として1000万円を支払えという督促がきました。ABCがびっくりして,相談に来られました。どうすればよいのでしょう。
早速,ABCの代理人として家庭裁判所へ相続放棄の申出をしました。相続放棄は,相続の開始を知った時から3か月以内にする必要がありますが,相続人が相続の開始を何時知ったかは個々の事例ごとに異なりますから,申出が遅れた理由を書いて提出すれば,家裁は相続放棄の申出を受理してくれることが多いからです。そして,家裁の「相続放棄」の受理証明書があれば,債権者からの督促もそれで終了してしまうことが多いからです。もっとも,相続放棄の申出が家裁に受理されても,それで相続放棄になるわけではありません。上記の例では相続放棄の申出は死後2年以上が経過してなされていますが,この相続放棄が有効か否かは,原告(相続人の債権者)が相続人に対し,保証債務の履行を求めて訴訟を提起し,被告(相続人)が「相続放棄」を理由に支払いを拒絶したときに,裁判所が判断することになります。
死期の迫った高齢者の結婚と相続
甲(男)は内縁の妻乙と10年以上同棲していましたが,70才で死亡しました。65歳のときに交通事故によって脳挫傷になり,それからは自宅で寝たきりの状態が続きましたが,乙が介護を続けてきました。甲が死亡する10ヶ月前に,甲と内縁の妻乙が婚姻しました。甲は四肢麻痺のため筆記できないので,婚姻届の署名は乙の子が代筆しました。甲の兄弟は,婚姻当時,甲には意思能力がなかったから婚姻が無効である,乙は妻ではなく相続人ではないと争っています。乙からご相談を受けました。
婚姻は婚姻届の役所への提出によって効力が生じます。婚姻届の署名は代筆でもOKですが,意思能力が必要です(なければ婚姻は無効です)。甲の意識状態がしっかりしていればよいわけですが,実際には,死期が迫った段階で婚姻届が作成されることもあるので争いになりやすいわけです。本件では,婚姻届作成時に,甲のかかりつけの医師が立会い,その場で甲の意思を確認しながら,乙の子が代筆しました。
甲の死後,甲の兄弟から乙に対し,「婚姻無効の確認」を求める訴訟が裁判所に提起されましたが,最終的に乙が勝訴し,婚姻の有効性が確認されました。勝訴した原因としては,医師の立会も重要でしたが,それ以上に,甲の立場から見て,その婚姻にどのような合理性があるのか,甲がその時点で婚姻を決意した合理的な動機があるのかが重要だったといえるでしょう。婚姻時の甲の境遇からは,長年同棲してきた乙の生計の維持,また自分の財産を疎遠な兄弟ではなく近しい乙に引き継いでほしい,そのような気持ちが死期の迫った甲に婚姻を決断させることもありうる(不合理ではない)と認定されたことが重要であったと思われます。
似た例としては,死期の迫った高齢者が遺言をした場合にも,それによって不利益を被る相続人から,遺言当時の遺言者には遺言をする意思能力(遺言能力)がなかったのではないかと争われることがあります。