ここ数年で,「あおり運転」という言葉が大きく取り上げられるようになりました。
「あおり運転」とは,周りの自動車やバイク,自転車などを煽りながら運転することで,例えば,前の自動車を執拗に追跡し,車間距離を急激に狭めたり,無理な割込みをしたり,急ブレーキをかけたり,無理な幅寄せをするような場合をいいます。
このような「あおり運転」が大きな事故につながる危険な行為であることは明らかですが,法律上では,車間距離保持義務違反,進路変更禁止違反,急ブレーキ禁止違反等の道路交通法違反に該当することがあります(警察庁HP参照)。あおり運転が原因で,死者や負傷者が発生した場合には,危険運転致死傷罪(妨害目的運転)に該当する可能性もあります。なお,同罪は,負傷の場合は1ヶ月以上5年以下の懲役,死亡の場合は1年以上の懲役に処せられます。さらには,運転に関する法令違反だけでなく,刑法の暴行罪が適用される場合もあります。単なる過失運転致死傷罪の場合は,1ヶ月以上7年以下の懲役もしくは禁固又は100万円以下の罰金に処せられ(ただし,傷害が軽い時は情状により刑が免除されることもある),罰金等の余地があることに比べると,相当重い刑罰が下されることになります。2018年7月には殺人罪で起訴された事例もありました。
あおり運転の場合に,どのような法令が適用されるのかは,個別の事情によることは当然ですが,危険な運転をしてはいけないことも当然です。しかし,いつどこで「あおり運転」に巻き込まれる可能性がないともいえません。「あおり運転」に巻き込まれ,自身が危険回避のための走行をした結果,周囲の第三者との間で事故が発生した場合には,「あおり運転」に巻き込まれた方も,その事故の責任を負わなければならない場合があります。
「あおり運転」はもちろん,あおる方が悪いのですが,もしあおられてしまっても,相手を逆上させないよう,道を譲ったり,ドライブレコーダーの設置により証拠を残すことも大切です。後部に設置すると,相手への抑止にもなると思われます。
もしも,「あおり運転」に巻き込まれた場合には,安全な場所に車を停めすぐに通報するか,同乗者が通報するなどして身を守ってください。
弁護士 中谷 彩