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2020.02.21
最近よくさせていただく業務のひとつに,破産管財人の仕事があります。
破産管財人とは,破産手続に入った破産者の財産を調査,管理し,必要に応じて処分するなどして,債権者に配当金を平等に分配する役割を担う仕事で,破産開始決定時に裁判所から選任されます。
皆様の中には,取引していた企業が突然破産を申し立て,売掛金の回収ができなくなってしまった,という苦い経験をされた方がいらっしゃるかもしれません。今回は,我々弁護士が担う破産管財人の仕事のご紹介とともに,債権者の視点も交えつつ,手続を概観してみたいと思います。
破産開始決定がされ,弁護士が裁判所から破産管財人に選任されると,破産管財人は速やかに破産者と面談し,破産者の状況,換価可能な財産の存否など事案の把握に努めます。
また,この時点から破産手続が終了するまで,破産者の郵便物は全て破産管財人の事務所に転送されるようになりますので,これらの郵便物を確認することなどによっても,他に債権者がいないか,隠している財産はないかといったことを調査していきます。換価可能な財産は売却し,預金口座や各種契約を解約したりすること等によって,少しでも財団(債権者への弁済原資となりうる財産)の増殖につながるよう努めます。
財団の全容が判明したところで,債権者に弁済ができるか否か,どの程度弁済可能か等について検討します。ここで働く大原則が債権者平等原則です。ちなみに債権者平等原則は,債権者が一律平等に扱われることを意味するのではなく,同一種類の債権については平等に扱われなければいけないという原則です。破産手続そのものにかかる費用や税金,労働債権(従業員の未払い給与)などは優先され,その後に一般の債権者への弁済が検討されることになります。
このように見ていきますと,債権者が売掛金の回収を実現するのは,破産手続に入った場合には相当に困難なことがわかります。回収できたとしても,他の債権者との按分弁済となり,一部のみの回収にとどまることが大半でしょう。
では,どうすればよいか。破産手続の中で一般債権者とは別に扱われるのが,担保権を有している場合です。あらかじめ担保をとり,法的に有効な対抗要件を具備しておくことは重要です。とはいえ,取引先が危機的状況に陥ってから担保をとっても破産管財人が黙っていませんので,平時からの準備が大切です。また,売掛金だけでなく,相手から別の物を買うというような形で反対債権を持っている場合には,債権債務を相殺することによって実質的な回収が可能になる場合があります。
あと,聞き慣れないかも知れませんが,動産売買先取特権による回収ということも考えられます。ある動産の売買をした場合に,その売買代金債権回収のために,売買の目的物そのものに対して優先的な権利が認められます(法定の担保権)。実現にはある程度ハードルがありますが,こういった権利があることを知っておくことは有益かと思います。
こうして,破産管財人は破産者の財産を整理し,各債権者に対して然るべき対応をし,これらの結果を裁判所に報告することによって,任務を終了します。破産者が,人生の再スタートを切るための後押しをすることも,任務のひとつと言えるでしょう。
弁護士 井上 彩