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弁護士倫理について考える ~あなたなら、どうしますか?~

2020.02.07

 私たち弁護士には,公益活動など様々な義務があります。倫理研修もそのひとつです。
 では,ここで問題です。一緒に考えてみてください。
 交通事故を起こして人を死傷させたとして自動車運転過失致死傷の罪に問われた被告人の刑事事件において,あなたは弁護人をすることになりました。被告人から,「先生にだけは本当にことを言いますが,絶対,誰にも言わないでください。実は,交通事故を起こしたのは私ではありません。車を運転していたのは,私の夫です。夫は,個人タクシーの運転手です。交通事故を起こして免許取消になったら,家族は路頭に迷ってしまいます。子供たちのことを考えると,私が夫の身代わりになって有罪判決を受けたいと思います。」と告白されたとき,あなたが弁護人だったら,どうしますか?
 これは,私が受けた弁護士登録満10年後の倫理研修で,取り上げられた問題の一つです。
 弁護士は,罪のない人を罪を犯したものとして,有罪を前提にした弁護をしていいのでしょうか?
 もちろん,まずは,被告人に対し,身代わり犯人となることをやめるように説得を試みるでしょう。けれども,被告人が家族を守るため自分が犠牲になるしかないと強い決意を持ち弁護士の説得に応じないとき,弁護士はどうすべきなのでしょうか?
 無実の人に罪を負わせるようなことがあってはならない。正義感にとらわれて,被告人は無罪である,真犯人は別にいると弁護士が法廷で述べることは,守秘義務に反し,許されません。
 では,弁護士は,被告人の自己決定権を尊重し,その選択に従って,被告人が罪を犯したことを前提にした弁護活動を行うべきなのでしょうか?
 弁護士には,積極的真実義務はないが,消極的真実義務はあると言われています。すなわち,弁護士は,積極的に真実を明らかにすべき義務までは追わないが,それが虚偽と知りながら虚偽の事実について主張すべきではないといわれています。身代わり犯人の刑事弁護は,この弁護士の真実義務に反するという人もいるでしょう。
 一方で,人によっては,被告人が有罪か無罪かについて特に言及することなく,情状弁護だけをしておけば,消極的真実義務に反しないと考える弁護士もいるかもしれません。けれども,公判で,弁護人が被告人の罪状につき有罪も無罪も述べないということはできるのでしょうか? できたとしても,極めて不自然な気がします。
 そもそも,身代わり犯人である被告人は,真犯人を隠匿したとして犯人隠匿罪に問われる可能性があります。弁護士は,仕事とはいえ,かかる犯罪の手助けをしていいものなのでしょうか? 場合によっては,弁護士も,犯人隠匿罪の共犯に問われるかもしれません。
 悩みはつきません。答えのある問題ではありませんし,仮に,正解があったとしても,それは一つではないのかもしれません。

 弁護士をしていれば,倫理上の問題だけではなく,様々な悩みに直面することが数多くあります。悩みながらも,目の前に立ちはだかる問題を一つ一つ解決しながら,前へ進んでいきたいと思います。

弁護士 藤井 安子

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